変えるヒト、変わるヒト。-新しい社会貢献のカタチ-

特定非営利活動法人TABLE FOR TWO 事務局員 安東迪子さん

1982年2月26日生まれ。 大学卒業後、シンクタンクに2年勤務。その後食品流通会社に勤務後、TABLE FOR TWOの立ち上げに関わる。2007年10月NPO法人化。
TABLE FOR TWOは、「先進国の私たちと開発途上国の子どもたちが時間と空間を越え食事を分かち合う」というコンセプトの元、対象となる定食や食品を購入すると1食につき20円の寄付金が、開発途上国の子どもの学校給食になるプログラムを実施。 開発途上国の飢餓と先進国の肥満や生活習慣病の同時解決を目指すこの活動は現在200以上の企業・大学などへ大きな広がりを見せている。(2009,12月現在)

プロローグ

天井まで真っ白な壁に漆黒の天然木フローリング。緑と光があふれ、一瞬カフェとも見間違えるほどの素敵なオフィス。ここ、TABLE FOR TWO(以下、TFT)のオフィスは東京ミッドタウン至近の場所にある。
あなたがNPO(特定非営利活動法人)と聞いて思い浮かべるイメージは何だろうか。「せまいアパートの一室で活動している?」「ちゃんと給料もらって働くことができるの?」「なんとなく・・・オシャレじゃなさそう。」こんなイメージを持っている方がもしいたら、ぜひTFTのサイトを、オフィスを、そして活動を知ってほしい。
既存のイメージを一掃し、これからのNPOのありかたを牽引していく団体にきっとなりうる・・・そんな可能性を強く感じずにはいられない団体だからだ。

始まり、それはTABLE FOR TWO

「TFTの活動に携わったのは法人化の少し前、2007年の9月からですね。前職はフランスから輸入した食品をレストランや百貨店などに卸す仕事をしており、もともと食品関係に興味がありました。
ただし、食品の大量廃棄の現場も知り、『もっとこの食べ物を必要としている人が世界にいるんじゃないだろうか。』とぼんやり感じていました。」
前職の会社が急に休眠することになった安東は友人の紹介で現在の事務局長、小暮とTFTの活動を知ることになる。「食」と「同時に世界の子どもたちにも給食を」というキーワードにピンと来た安東はそこから現在まで小暮とともにTFTを文字通り二人三脚で支えてきた。
安東は朗らかに笑いながらこう語る。

「最初はこんなお洒落なオフィスではなくて、別のNPOのオフィスに机を2つ置いて間借りしている状態でした。TFTって先進国の私たちと開発途上国の子どもたちが、時間と空間を越え食事を分かち合うというコンセプトで付けた名前なのですが、その頃は『文字通りTABLE FOR TWO(小暮と安東の2人分の机しかない)だよ~!!』と笑っていましたね。」
しかしこの事務所の狭い一角からTFTの活動は着実に歩みを進めることになるのだった。

無我夢中

初期のころの活動内容を振り返ってみると、安東はほとんど覚えていないと言う。WEBサイトを作成する、企業を訪問できるとなったら営業資料の作成をする、契約をすることになったら契約書の雛型を作成する。法人化には定款が必要なので作成する。とにかく目の前にあることをこなすことで精いっぱいだったため、具体的にどんなことをやっていたのかすべてを思い出すことはできないそうだ。
初めてでわからないことだらけ、しかも人数は2人だけ。毎日、無我夢中で全力疾走した。

「辛いと思ったことも辞めたいと思ったこともありません。私はどちらかというと大企業で分業された仕事を深く追求していくよりも全体を知るためにどんな作業も自分でやってみたいと思う方なので。また、事務作業1つをとってもこの作業がどこかの国の子どもたちの笑顔につながっていると思うと深いやりがいを感じるので、辞められないのです。」

自分の生活の中に無我夢中になれる時間を私たちはどれくらいもっているだろう。
夢中になること。それは煩雑な作業も、目の前の困難も自身で気づかないほどに鮮やかに乗り越えることができる力を生みだす。そんなことを教えてもらう安東の言葉だ。

1年で100社以上に導入!! TFT食堂プログラムとは?

ここで、TFTの活動を紹介しておきたい。TFTの国内事業のメインは「食堂プログラム」と呼ばれるものだ。企業の社内食堂などでヘルシーメニューを作ってもらい、代金に20円上乗せしてもらう。その20円が開発途上国の子どもの1食分の給食費となる、つまり先進国の私たちの肥満と開発途上国の子どもたちの飢餓を同時に解消しようというプログラムである。

前述の通り、無我夢中で走っていた2人の周りには共感者が次々に集まってくる。そして「肥満と飢餓の同時解決」という明快なコンセプト、堅苦しさなく参加できるシステム、導入のしやすさも伴い、このプログラムは省庁、企業、大学、病院などの食堂で爆発的に広がり、多いときには1週間に10社も申し込みがあったという。
また、食堂がない企業でもこのプログラムに大変共感し、CUP FOR TWO(喫茶スペースや自動販売機等で、ヘルシードリンクの売上の一部が、TFTを通じて開発途上国の子どもの学校給食として寄付される仕組み)とアレンジを加えて展開しているところもあるのだそうだ。

次のステージへ

社会貢献、CSR、国際協力などの分野に関心が強い人の間では随分浸透してきたこのプログラムだが、今後はあまりそういったキーワードに関心がない人にも参加してもらえる仕組みを作ること、そして食だけでなく食に関する啓蒙や食まわりに関する事業も展開していきたいと安東は語る。

「NPOで働くことの面白さの1つに、ミッションに共感してくださった様々な分野の方とつながり、新しいことを生みだすプロセスがあげられます。 例えば、TFTでは2010年3月にお弁当箱を販売することになったのですが、これは活動に共感してくださった社会人の皆さんがなんと出社前にTFTのオフィスに集まってくださり、何度も話し合いをして形になりました。自分だけでは思いもよらないアイデアがでて、実際に形にしていく。それもメーカーで市場調査をしている方や、営業をしている方が関わってくださるので、実現のスピードも速い。そのプロセスは本当に楽しくて、やみつきになります。」

ここでぜひTFTのHPを見ていただきたい。国内外のプログラムに加え、社会人のサロンサイト、サポーターサイト、様々なイベントやキャンペーンの実施に講演会、活動報告などこれらの活動は多くの有志ボランティアメンバー、TFTが通称「ソーシャル社会人」と呼ぶ人々に支えられている。(現在も有給職員は小暮と安東の2人だけだそう。)

近年、社会貢献に関心がある人が増えているが、TFTのミッションに共感した社会人がお互いの経験を活かしてTFTの活動を支え、そして活動自体が関わった人の自己実現をする場にもなっているようだ。

キーワードは「食、そして子ども」

活動を振り返って語る安東は心から楽しそうで、活動の実績からの確かな自信と充実感が伝わってくる。

「自分の中では食、そして子どもがキーワードなんです。休日は1~2カ月に1度、渋谷区の小学校の土曜日の午前中の課外授業を友人とアレンジしています。例えばダンスの先生を呼んできて、子どもたちとダンスをする。マッサージの先生を連れてきて体験をする。カメラマンの友人が機材をもってきて職業体験なんてこともやりました。 TFTの活動内でも小学校へ行ってTFTの仕組みを紙芝居で教えたり、食育に関する授業をしたことがあります。もちろん、休日は友人と遊んだり、旅行したり、ゆっくりしていることもありますよ。」

仕事でも、プライベートでも「食、子ども」というキーワードを軸に安東は活動しており、それが楽しくてたまらないのだと言う。自分の好きなことをやる。好きなことだから思いっきり楽しみながらできる。毎日を楽しみイキイキしている人のもとに人は集う。そして安東を支える人は集まり、活動は意図せずとも自然な広がりをみせる。

「心から楽しんで生きる。」
しなやかにそれを実践して生きる安東のまわりに、今日もまた人が集まる。

エピローグ

これからやりたいこと、またはこうしたいという展望はありますか。という問いに安東はまずこう答えた。

「もともと小暮も私も民間企業出身でNPOの活動自体TFTが初めてでした。活動を実際にしてみて感じていることは日本人はNPOに対して屈折した認識を持ちすぎている、ということです。『NPOって怪しくない?』『ちゃんとお金って現地に送られているの?』企業を回っていてこんな声をいただくこともあります。寄付金を人件費に充てることもそうです。例えばレストランに行ったときには料金に人件費が上乗せされていますよね。でも寄付金だと人件費に使うことを理解してもらうことは難しいです。」

 実際、安東自身も活動を始める前は同じようなイメージを抱いていたという。安東は続けて語る。

「アメリカではNPOは企業と同等に就職の選択肢の1つとなっていますよね。だから今後日本でもNPOを同じような地位にできれば、と思っています。ふらっとTFTのサイトを見たときに『あ、NPOってこんな面白いことをしているんだ。NPOってすごい。』と思ってもらいたいし、どんなプロフェッショナルな方にも認めてもらえるような活動にしたい。そうやって日本のNPOのイメージを一新する先駆けになりたいと思います。」

この言葉は決して絵空事ではない。
小さな事務所の中であの日始まった小暮と安東のTABLE FOR TWO(2つの机)は、今日、私たちと世界の子どものTABLE FOR TWOへと確実に変化を遂げ、限りない可能性を見せてくれているからだ。

安東迪子さんから、あなたへのメッセージ

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~ランチを変えると、世界も変わる
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[ 取材:玄道・桑原・今井 撮影:種村 ページ作成:岩堀 ]