変えるヒト、変わるヒト。-新しい社会貢献のカタチ-

小休止

 インタビューをはじめてから1時間が過ぎようとしている。ここまでは、夢職人という団体がNPO化するまでの道のり。特に岩切準という一人の青年の学生時代の話を中心にインタビューをしてきた。しかし、その途中で何度も気になっていることがある。おそらくNPOに就職する、もしくはNPOを立ちあげるという類の話を聞くときには、誰もが思い浮かべる重要な質問だ。つまり「生活はどうするのか。」ということだ。たとえば、アメリカでは事業規模も大きなNPOも多く、MBA(経営学修士)をとった優秀な学生がNPOに就職するという光景はなんら不思議ではない時代になってきたといわれる。一方で、日本の状況はそこまでには遠く及んでいない。「百年に一度の不景気」とよばれる昨今、NPO法人の活動を展開する岩切にとって生活の不安感はまったくないのだろうか。

社会起業家という人々

「使命感のほうが強かったんです。自分がこの分野に取り組まなくてはいけないという・・・。目の前に課題があるからその山を登りはじめました。たぶん、食べていくことを先に考えていたら夢職人はやっていなかったと思います。」

岩切の心はあるコトバによって支えられている。一緒に遊び、育ててくれた地域の「おやじたち」の言葉だ。岩切が子どものころ、感謝の言葉を述べようとすると、「おやじたち」はいつもこう言った。

「今度はキミが子どもたちのために、いつか同じことをしてあげなさい。」

この言葉があったからこそ、自分の使命感と生活を両立させるためにはどうすればいいのか、ということを常に考えるようになったのだ。とはいえ、世の中はそれほど甘くない。現在の社会では、どうしても「社会にイイコト=食べることができない仕事」になってしまう。学生時代にアルバイト代をほとんど活動に費やしていたから、経済的にもアルバイトをしながら活動を続ける難しさは痛感していた。また多くのボランティアをやってきたからこそ、ボランティアでやれることの限界も痛いほどにわかっていた。

「いったい、どうしたら収入がついてくるのだろう?」

この問いこそが、岩切を「社会起業」という分野に結びつけることになる。社会起業とは、社会的課題を事業で解決していくことである。アメリカや日本の社会起業の事例をみていくなかで、これならば生活と両立しながら、子どもの社会教育を行うことができるのではないかという希望を持つことができた。

ただ、問題もあった。そもそも社会教育に関するプログラムを考えるのには自信があった岩切だったが、経営はまったくわからない。「マネジメント?マーケティング?」こんなありさまだった。そこで岩切は、物事を継続していく力や発展させていく力は企業が持っているわけであり、それらを学ぶことは子どもたちのためになるという想いから、とあるNPOが行っている、社会事業を専門家とともにブラッシュアップしていく活動に参画したのだった。その経験が夢職人に大きな変化をもたらした。
自分の考えを研ぎ澄ましていく作業は、事務所の机の上ではできない。ビジネスの専門家たちから「キミはどうしたいんだ?」と問いかけられることで、次第に、自分が目指していきたいところはどこか?やるべきことはいったい何か?ということが明確になっていった。それはスキル習得の場ではなく、NPOとして活動するために、もっとも大切なミッションやビジョンの明確化。さらには、それを達成するために何をすべきか?というアクションプランを具体的に考えさせられる機会となった。この経験を通じて夢職人は劇的な組織形態の変更を行い、関わるスタッフの数も急激に増えていった。収益も約2倍となり、活動展開のスピード感もよりいっそう進化したのである。

旗上げ

 話を団体立ち上げ当時に戻そう。もともと夢職人は任意団体からのスタートだった。それはまさしく何もないところからの始まり。子どもたちの保護者や地域からの信頼もないなかで岩切らはある行動を実行した。それは一緒に活動する仲間を募るために、アルバイト代をだしあって、あらゆる友人に手紙を書きまくったのだ。そうやって仲間が一人二人と集まってきた。最初の2年間はアルバイト代をつぎ込んで活動を続ける毎日であり、生活との両立の厳しさを感じていたのだった。だからこそ、生活と活動を両立させ、さらに活動を発展させていけるような仕組みをいかに作り上げるか?という問題意識が生まれていった。ただ、教育分野は顧客に負担を強いるだけのビジネスモデルは通用しない。なぜなら、本当に教育を受けてもらいたい人達が、みんなお金もちとは限らないからだ。現在、夢職人では、会費・寄付・助成・事業などの合算で事業をまわしている。会費や寄付・助成など多くの方からの協力を得ながら事業をまわしているからこそ、絶対的なこだわりを持っているのがプログラムの質である。

「子どもに変化がおきない教育プログラムでは意味がないんです。」と岩切はいう。

 夢職人ではすべてのプログラムにおいて、効果測定のための項目を設定。数値化した後に、多面的にプログラムの評価を行っている。

「子どもに対して変化を起こしていく。社会に対して変化を起こしていく。これができなければ、自分たちが楽しむだけのサークルになってしまう。それでは、絶対にだめなんです。子どもたちがよりよく成長していくためにどうしたらいいのか?そういう成果を考えぬいて、プログラムを実施していくことが大切だと思います」

 活動の効果や成果を重要視する点からはボランティアに対する岩切自身の考え方もにじみでている。

 「ボランティアというのは、かけがえのない時間を金銭的な対価なしにあてています。だからこそ、自分が一生懸命やったことを目にみえる状態にすることがとても重要なんです。つまり、ボランティアだからこそ、成果がみえなければならないと思っています。」

 夢職人には、社会人のボランティアが多数かかわっている。しかしながら、一般的に言われるようなボランティアの意識でやっているスタッフはいないのだという。国籍や年齢の違い、高校生から50歳代まで、実に多様なバックグラウンドを持った無給スタッフが、子どもたちを変えていくためのパートナーとして本気で活動にかかわっている。
 このような活動が評価され、様々な組織から協働の話が舞い込むことも少なくない。たとえば、子どもたちが地域のお祭りで駄菓子屋を2日間経営してみる。事業計画書を書いてみて、民間の企業に勤める社会人に相談しながら、大人と一緒になってプロジェクトを組んで学びを得る。様々な人と協働しながら、課題解決をすることで収益をあげる。これはどんな仕事でも共通することであり、体験することを通じて、子どもたちの成長につながるのである。