変えるヒト、変わるヒト。-新しい社会貢献のカタチ-

HASUNA Co., Ltd. 代表取締役 白木夏子さん
1981年鹿児島生まれ。短大卒業後英ロンドン大学キングスカレッジにて、発展途上国の開発について学ぶ。卒業後は国連人口基金ベトナム・ハノイ事務所とアジア開発銀行研究所にてインターンを経験。帰国後投資ファンド事業会社に約3年勤務。
退職後、2009年4月HASUNA Co.,Ltd.設立。
環境や社会に配慮をした素材を使用した、エシカルジュエリービジネスを展開中。

※直訳すると、"倫理的な"、"道徳的な"という意味。 環境や社会に配慮をした素材・フェアトレードやリサイクルの素材を使用してビジネスを行うことをここでは指す。

プロローグ

「蓮は泥より出づるも泥に染まらず」
北宋の儒学者、周茂叔の『愛蓮説』の中の一説にこんな文章がある。文字通り、蓮の花は濁った泥の中で育っても気高く、力強く、そして美しい花を咲かせる。

「蓮のように、どんな場所にいても、懸命に生きる人たちを応援するブランドでありたい。」
HASUNAという花がまだ蕾だった頃、代表の白木はブログにこう綴った。

01.エシカルであること

あなたがジュエリーを手にする瞬間をイメージしてみてほしい。

自分へのご褒美。 恋人へのプレゼント。
愛する人への誓い。 特別な記念日。

それはきっと、誰かを愛しむ幸せな一時。
新たな未来への一歩を踏み出そうとする強い意志の表れ。
ジュエリーはいつも心に刻まれる、大切な時間を創りだす。

実はジュエリーを創るパーツの多くは、途上国から輸入されている。
その過程では、紛争や途上国での児童労働、環境破壊が起きているという事実をあなたは知っているだろうか。

「ジュエリーは尊いもの。愛の象徴であったり、一生の宝物になったりします。人に勇気を与え、身につける人を輝かせることができる。だからこそ、その背景にいる、携わっているすべての人が輝いていなければいけないと思うのです。」
インタビューの始めに、白木はこう語る。

HASUNAのジュエリーは生産・流通過程を可視化でき、児童労働や搾取をしないことに加え環境破壊をできる限り抑えた素材の使用を心がけている。
カナダのコンフリクト・フリーのダイヤモンド、ベリーズの黒珊瑚、ルワンダの牛の角、そして素材を活かした有機的なデザイン。
HASUNAが生みだすジュエリーには輝く人、素材、デザイン、そしてストーリーが詰まっている。

※紛争の引き金となったり、武器輸出の対価として闇取引されているような危険性のないダイヤモンド。

02.スタートはパラレルキャリアから

学生時代に開発学を学んだ白木は「お金のことを知り、ビジネスを通じて社会を変えよう」と考え、経営とお金について学ぶために勤務先として不動産投資ファンドを選んだ。
最初の1年半で新規ファンドの立ち上げに携わる。まさしくそれは会社の立ち上げの疑似体験とも言える経験だった。

その後、バックオフィスに異動した。自分の時間ができたので、今後何をやっていこうか真剣に考え、いくつかビジネスモデルを練った結果、エシカルジュエリーのビジネスに行きついたのだという。

「もともと学生時代にジュエリーを自分で創り、ネットショップで販売してお小遣い稼ぎをしたりしていました。デザイナーである母からや、独学で本を読み、デザインを学びました。素材の使い方などの技術的な要素は学校に通い、習得しましたね。会社帰りや休日を利用して7~8カ月は平行して学んでいました。」

白木は続いて、初めての受注の想い出を語ってくれた。
「きっかけは2008年6月にRoom to Readの代表John Woodさんの講演に行ったことです。質問の時間にエシカルなジュエリービジネスを始めようとしていると伝えたのですが、その話を会場内で聞いていた結婚を控えた女性から声をかけていただき、結婚指輪を創ることになったのが初めての受注です。その後、口コミで1つ、2つと増え‥という感じで広がり、OLを継続しながらジュエリーの制作販売を行っていました。」

縁あって出会った最初のお客様からつながり、自分の小さなプロジェクトのような形でスタート。投資ファンドの会社員、そしてジュエリーデザイナーとしてのパラレルキャリアは1年弱続いたという。

その後、退社。2009年4月1日株式会社設立を迎えた。

03.見えない不安と闘う日々

現在、会社は立ち上がってから1年強。その道のりは、投資系ファンド会社でビジネスやお金のことを勉強したからといって順風満帆というわけにはいかなかった。

「昨年4月に勢い余って、会社を設立したまでは良かったのですが、実は2カ月位して資金が枯渇してしまったんです。設立当初でお金がないと本当に何もできない。銀行にも一蹴され、友人たちにお金を借りて回りました。 親以外の人にこんなことをやりたいからお金を貸してくださいと伝えて回ることにとても精神的な抵抗があったことと、集めた600万円の資金を目にして絶対にこの資金だけは枯渇させられない…!と心が押しつぶされそうでした。」

小資本で始められるビジネスといっても、ビジネスにリスクはつきもの。会社を設立し、社長となったからには厳しい現実ともしっかり向き合っていかなければならない。

「設立当初だったのでWEBショップしかない状態。他に売る場所も無いし、WEBショップもスタートしたばかりで全然売れない。営業活動をして百貨店から期間限定ショップのオファーが来るようになってもビジネス自体の経験不足から、経費がかかり過ぎて手元にお金を残すことができない。売れるか売れないかわからないものを抱えていて、見えない大きな不安にいつも包まれている感じでした。何度もアルバイトをしようかと考えました。」

白木にとって人生で一番辛い時期だったという。パートナーと言い合いになったり、深夜に涙がこぼれた経験も。

不安で苦しいからやらない。不安で苦しくても実行する。
普段の仕事や生活で、どちらを選択するだろうか。

白木は自分自身を「不言実行タイプ」だと分析する。
苦しい現実をしっかり受け止め、愚直に営業活動に励んだ。

「営業の結果、少しずつ期間限定ショップに置かせていただけるようになり、経験を積むことができました。今ではおおよそどんなものが売れて、求められているのか分かるようになってきました。2010年1月にコロンビアに行き、今後の計画をゆっくり立て、パワーチャージもできたので、これからまた頑張っていこうと前向きになれたところです。」

04.パートナーシップと次のステップ

続いて白木は現地パートナーとの出会いについて語ってくれた。

「私は短大卒業後、イギリスの大学に留学していました。なので、その時の友人の友人の友人・・・と言う感じでつてを辿っていったという感じです。現地で海外青年協力隊として支援活動を行っていた人たちに助けられています。」

留学中の白木は、「ただ机で勉強しているだけでなく、現場をこの目で見て体験してみたい」と思い、インドのタミルナード州に2カ月間滞在して支援活動をした経験がある。現場を大切にする白木は年に1度、パートナーの国に実際に訪れてもいる。

「現在の取引国はベリーズ、ルワンダ、ミクロネシア、コロンビアですね。(2010年3月時点)
2010年の1月はコロンビアに行ってきました。コロンビアでは金やプラチナが発掘できます。プラチナは単位数百万円~と高値なため、まだ取扱できていませんが、近い将来もっと会社に体力がついたらプラチナもフェアトレードで輸入して、アクセサリーを創りたいと思っています。」

4月からは初の新入社員も迎えたHASUNA。
今までは業務の中でもWEBや百貨店での販売を中心としていたが、 今後はもっとブライダルジュエリーの制作に注力する予定だ。
幸せな恋人のステップを一層華やかに、輝かせるために、オーダーされたお客様に直接話を聞くことでイメージを膨らませ、1つずつ心を込めて作り上げるHASUNAのブライダルジュエリー。

途上国、恋人たち、お客様、支える人達。幸せの仕掛けに夢が膨らむ。

05.彩りを添えるもの

今度は白木が影響を受けた本、映画などに話が及んだ。
よりよいジュエリーを世に送り出すためには、感性を磨く時間も欠かせない。

「昨年は手塚治虫の「ブッタ」や「火の鳥」にどっぷり浸っていました。すごく学ぶことが多いなぁと思った漫画です。あとは「ブルー・セーター―引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語」ですね。こういう分野で女性の視点から書かれた本は少ないので勇気づけられました。」

幻想的で心に迫る世界観。女性らしさと母性愛。
ジュエリーを制作するうえで必要なインスピレーションはこんなところからもきっと得ているのだろう。

「映画ではこの事業を行う上で影響を受けた「ブラッドダイヤモンド」、他には「Earth」などのネイチャー系の映画を見ることが多いです。」

たくましく生きる、ルワンダ女性をイメージしたジュエリー。
ベリーズのオレンジ畑をイメージしたジュエリー。

HASUNAのジュエリーは手にとるとその背景が映し出されるような気がする。

※紛争の資金調達のため不法に取引されるダイヤモンド、(紛争(conflict)ダイヤモンド)を巡るサスペンス映画

06.今を生きる

白木は過去に苦しかった経験や悩んだ経験を決して隠さない。
恋愛関係で悩んだり、大学入試に失敗したり、会社が資金難になったり、深く悩み迷いぬいて生きている、と。

「人生で何をやりたいかわからなくなった時期はありましたね。そんな時はとにかく人が集まる場所行き、たくさんの人に会って話を聞いたり、いろんな本を読みました。
何か新しいことを始めたいと思ったら、先駆者的な存在の人に学ぶことでどんなことをやっていけばいいのか。どんな分野で、どんな人間を目指すべきなのかについてだんだん見えてくると思います。」

そんな白木に、最後にこんな質問をしてみた。
『これから自分自身、どんな人でありたいと思いますか?』

「私は常に目の前のことを、人生を楽しんでいたいと思っています。
 過去でも、未来でもなく「今を生きる」ことを楽しむ自分でありたいですね。」

今を生きる。
そんな白木からのメッセージにぜひ目を向けてほしい。

エピローグ

ホームページや白木のブログには、蕪村の句の言葉が刻んである

「この泥が あればこそ咲け 蓮の花」

悩んで、苦しんで、ぶつかって、乗り越えて。
すべてを自分の糧にして生きる白木はまさに「蓮の花」のような女性である。

あなたは自分の人生に、どんな花を咲かせようとしているだろうか。
白木の人生と、想いを詰め込んだHASUNAの未来が今、大きく花開く。

白木 夏子さんから、あなたへのメッセージ

HASUNA Co., Ltd.
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[ 取材:玄道・大司 撮影:前田 ]