変えるヒト、変わるヒト。-新しい社会貢献のカタチ-

特定非営利活動法人 TRYWARP 代表理事 虎岩雅明さん

1979年大分県生まれ。千葉大学工学部情報画像工学科から2005年同大学院卒。
これまで茨城・カナダ・神奈川など様々な地で過ごすが、大学入学時より12年間西千葉在住。
在学中の2003年に千葉大学生により、地域でパソコンを教える学生サークル「トライワープ」発足。2004年NPO法人化。
西千葉でパソコンを教えることを通して、大学生と地域の交流を図っており、結果としてまちであいさつをしたりお互いに声を掛け合ったりという「絆」創りを行う。
パソコンの講習会に加えて、パソコンに対する質問に直接対応をする出張サポートや相談会を行うなどの万全なフォロー体制を整え、また西千葉コミュニケーションサイト「あみっぴぃ」(SNS)も運営中。
1人でも多くのまちの「こんにちは」を目指して挑戦を続ける日々。

プロローグ

最後に近所の人に「こんにちは」と声をかけたのはいつだっただろう。「思い出せないなぁ」とはっとした瞬間に寂しい何かを感じてしまうのは、私だけではないはずだ。
ここは西千葉、ゆりの木商店街。第三土曜に行われる第三土曜市では採れたて野菜が販売されている。 「こんにちは!」この街でそう声かけられたなら、それはもしかしたら今回ご紹介する団体、TRYWARPの創りだした地域の絆の証なのかもしれない。 

走り抜けた学生時代

代表の虎岩は現在30歳。千葉大学に入学後、ずっと西千葉で暮らし、活動を続けている。
今回のインタビューは虎岩の学生時代の話題から始まった。

入学した学科は情報画像工学科。何やら難しい名前の学科だが、内容としてはデバイスの開発や画像上における肌色の視覚的美しさの研究、液晶プロジェクタの研究(主に見る側の人間の研究)、など画像に関することすべてを研究する学科。虎岩も当然研究に没頭する日々を送った・・・のではなく、実は学校をサボっていた(笑)

「学生時代の名言がありまして。」虎岩は笑いながら語った。
「『単位の数は友達の数』『卒論1ヶ月、修論2ヵ月』ってね。後輩に言って回っていましたよ。それくらい不真面目な生徒でした。」

それでは学生時代にいったい何をやっていたのか。
実は虎岩はCBS(放送研究会)というサークルに所属し、映画を撮ることに熱中したり、イベントを企画したり、プログラムを勉強して個人で受注をしたり…とにかく興味を持ったことに全力疾走する日々を送っていたという。



「放送研究会という言葉のもつ少しマニアックなイメージを変えたくてイベントを学内で行っていたんです。ファッションショーや演劇、音楽のLIVE、ラジオなどを学内で行おうと。それで学内で屋根つきステージを立てて、あとは渋谷のスペイン坂スタジオに当時憧れていまして。スポンサーを募って臨時に建ててみました。」

学生時代に何かに打ち込み、何かを形にしたいという想いをもった人は多いはずだが、実際に多くの人を巻き込んで大規模な企画を形にできる人はそう多くはない。それには多くの人の賛同と実際の協力が必要になるからだ。

虎岩の人をつなぐアイデアが続く。
「まず、人を集めるためにコカコーラにスポンサーになってもらって無料ドリンクのカフェを開きました。そこでショーやLIVEを楽しんでもらってね。そして流れている音楽のタイトルをi-modeで配信する仕組みを作って、さらにそのページを見てもらうためにモスバーガーとタイアップして携帯クーポンを載せました。 逆にモスバーガーでは大学構内向けに流していたラジオ番組が流れたりイベントの様子を見られるようにしたり。」

「あ、さらにその携帯クーポンの情報をB0判のポスターにしてJR西千葉駅の構内にただで25枚も貼らせてもらっていました。その代わりJRの青春18切符の学生向けCMを流したり、JRのラジオ番組を作ったりしてね。
そういえばポスターはエプソンとタイアップしてスポンサーになってもらって作成しましたね。」

圧巻される企画力と多くの協力を得たこの学生時代の経験が、今の虎岩の礎となっているのかもしれない。

「当時は相当なプレッシャーでしたけどね。2ヶ月間ずっと2時間睡眠という苦しさのなか走り抜けました。」

期待には絶対こたえたい

そんな虎岩は卒業後、就職ではなくそのまま起業という道を選ぶ。
学生時代と同様、多くの企業・団体・地元の人々に支えられながら活動を続け、今年活動は6年目を迎えた。
現在、NPO法人の数は増え続ける傾向にあり、全国で37000件以上*の団体が存在しているがすべての団体が順調に活動を続けられるわけではない。
加えてTRYWARPのようにパソコン講習を事業としている団体の数は現在、非常に多い。
そんな中でもTRYWARPが地域の住民に選ばれ、活動を続けられる秘密はどこにあるのか、伺ってみることにした。

「自分の中に一番大きくあるのは出会った人の期待に応えたい、という想いであり、それが自分を構成する一番大きな要素なんです。」

「例えばパソコンを教えている生徒さんに『こういうことはできませんか?」と言われて『できないです。』と言いたくない。どうにかしてできるようにしてきた結果、相手から感謝されてお返しされる。そうすると『もっと期待されているんだ。』と思っちゃいますよね? そこでさらに期待に応えるために奮闘するという・・・この連鎖がいろんな人とつながれるきっかけになったのかな。」

それぞれの団体が理念を持って活動をしているが、それに囚われすぎて「自分たちのミッションと異なるから。」と断るのではなく、柔軟に小さな「できませんか?」に応えていく。その積み重ねが大きな期待となって活動を広げていく出会いを生み出していくのだろう。
*(内閣府NPOホームページ調べ)

社長の仕事はジュースを運ぶこと!?

組織はゆっくりと、しかし確実に大きくなっていく。ボランティアとアルバイトだけだった活動もやがて新入社員を迎えるようになり、一方では社員が去っていくという経験もした。

人を雇うということは、はっきり言って怖い。社員の給料は、何があっても払わなきゃいけない。社員はいつか結婚もするだろう。その時に、家族を養えるだけの給料を払う道しるべをどうやって作っていったらいいのか。 組織に万が一のことがあったら?どこの会社の社長にお願いして雇ってもらおうか?
初めて社員を迎えることになったとき、虎岩はぐるぐるとこんなことを考えていたという。

「我々は資本主義経済というルールの中で生きています。ゲームに例えるなら、我々はスーパーマリオではなく、コントローラをもってプレイをしている状態。社長の仕事とみんながプレイしている部屋のクーラーをつけたり、ジュースを運んだり、そういう環境を整えることだと思うんです。もっと楽しくゲームをしてもらうことがね。」

「ゲームをするには上手い下手があって当然。スキルで人を判断するのではなく、一人ひとりと一緒にいたいからゲームをしている。この会社にいるのが楽しい。社員にとってそういう状態を創っていきたいと思います。」

組織を創るのは人。社員を想う虎岩の人柄が表れる言葉である。

エジソンに学ぶ「遊び心」

「エジソンってとってもやんちゃでいたずら好きなんです。自分で会社をやっていても居眠りばかりしていたり、フォードと世界中を旅にでていたりとか。あと「人間が空を飛べるようになる」、「雷から発電できるようになる」とか、「透明人間になれる薬ができそうだ」とか、マスコミにハッタリをかますんですよね。」
自分に影響を与えた人はどんな人ですか、という質問に対して虎岩はこう語る。

「そうやって口からでまかせを言うけど、影響力のある人だから記者が真に受けて記事になって投資家たちが集まって、そのでまかせに出資しちゃう。その結果、発明ができたりした訳です。そういう「仕事だけ」という部分がないというか、研究者らしからぬ遊び心を持っているところが好きなんです。」



楽しそうに続ける虎岩の目も、何か仕掛けてやろうといういたずらっ子のようで、「経営者の顔」とはまた違った一面が垣間見えたような気がした。

人は、仕事ばかりでは息がつまる。忙しい日々の中で張り詰めた心に、ふっと安らぎをもたらすのはこんな遊び心なのかもしれない。

TRY&WARP

最後に、TRYWARPという団体名とコンセプトに話題は及んだ。
TRYWARPという団体を知ってから
代表の虎岩の名前を初めて知った人にとっては、このネーミングセンスに感心するのではないだろうか。 

「なんにでもトライしてみよう、そうすれば今の場所からワープした成果がでるかもしれないから。」
活動を始めてから今の場所までワープを続けてきた人の言葉には確かな実感がこもる。

それでも多くの人は「やりたい」を「やってる」に、「知ってる」を「している」に変えられない。それはなぜだろうか。

「『どっちにしようか迷う』ことと『やるかやらないかで迷う』ということはすごく大切な言葉の違いだと思っています。その違いを敏感に感じ取って『やるかやらないか。』で迷った時には必ず挑戦しよう。これをすべての原動力にする、というコンセプトでいます。」

ただ、設立当初はまだ「社会起業家」という言葉もないし、ホリエモンも有名になる前。「ベンチャー起業なんて…。」と言われる時代だった。
「そうなんです。だから当初はTRYWARPじゃなくて、虎岩プーだってサークル仲間からからかわれていました(笑)」

卒業から起業へ。任意団体から法人化へ。ボランティアからスタッフへ。そして経営者へ。昨日から明日へ軽やかにワープを続ける虎岩は、明日はまた違う場所へワープする。

エピローグ

人は肩書によって少なからず先入観を持ってしまう。「代表取締役」と書かれた名刺を渡され、身の引き締まる思いがしない人はいない。

虎岩はプライベートな話もしてくれた。
「映画やドラマを見るのが好きです。休日に何もない時はひたすらドラマを見ていたりしますよ。すべてのドラマを録画しているので第1話からぶっ通しで見ることもあります。 映画は、最近『レッドクリフ』や『おっぱいバレー』を見ました。
自分も映画を撮っていたので台詞の背景を考えるのとか、好きなんですよね。」
笑いながら、好きなことを語る少年のような表情になり、なんだかこちらもほっとしたような気分になった。
代表者というのは確かに「変えるヒト」だ。ただし、あなたと同じ「ヒト」であることを忘れてはならない。

最後に今後の展望を伺ってみた。
「まだまだ支えてくれる方たちの期待に応えきれていません。パソコン講習を『うちではできないですか?』と声をかけてくれる他の地域へ展開したり、教室自体をやりたい、という人に対して仕組みを提供できるようにしたり。習いたい人、教えたい人をどんどんつないでいきたいですね。どんな場所にいる人に対しても期待に応えたいんです。」
くるりとまた経営者の顔になり、楽しそうに語る虎岩は、自分の可能性を信じた人がもつ輝きを放っていた。

虎岩雅明さんから、あなたへのメッセージ

特定非営利活動法人TRYWARP【トライワープ】
>> ウェブサイト

[ 取材:玄道 撮影:前田 ]

特集 バックナンバー